研究開発
研究開発の取り組み
創薬シーズ
当社の保有する創薬シーズは組換えヒトHGFタンパク質であり、当該シーズを用いて、複数の疾患を対象に臨床試験を実施しています。HGFは当初、肝細胞の増殖因子として日本で発見されました。増殖因子は細胞の表面に存在する受容体と結合することにより、細胞の核(遺伝子)にシグナルを伝達し、細胞の増殖開始のスイッチをオンにする生体内タンパク質です。HGFはもともと体の中で働く物質であることから組換えタンパク質として製造が可能になれば、高い安全性と効果を併せ持つ医薬品になる可能性があります。
HGF(肝細胞増殖因子)の特徴
- 日本で発見された、からだの中に存在するタンパク質
- 692個のアミノ酸がつながる比較的大きな構造
- 複雑な構造 (クリングル構造という:社名の由来) 、19個の分子内架橋
- マルチな生物学的機能
- 組織・臓器を 「保護」「再生」「修復」
HGF(肝細胞増殖因子)の作用機序
その後の研究によって、HGFは細胞増殖以外のマルチな生物活性を併せ持つことが明らかになり、対象となる細胞も肝細胞だけでなく、腎臓、肺、皮膚等の細胞に対して効果があることが示されました。特に、線維成分の蓄積により細胞の機能が低下する「線維化」や「硬化」を解除する作用(抗線維化という)及び神経細胞・グリア細胞等の神経系細胞に対する生物活性が明らかになると、複数の難治性疾患に対する治療薬の候補として様々な研究成果が報告されました。
開発パイプライン
- 複数の対象疾患でHGFタンパク質の治験を推進
- レイトステージのパイプライン(第Ⅲ相:2件、第Ⅱ相:1件)
- 脊髄損傷急性期、声帯瘢痕及びALSを対象とする開発にリソースを投下
臨床試験までステージが進んでいるパイプラインは4件(脊髄損傷急性期、声帯瘢痕、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、急性腎障害)、パートナーにより臨床試験が進められているパイプラインが1件(眼科疾患)、基礎研究のステージにあるパイプラインが複数あります。現在は、最も開発ステージの進んでいる脊髄損傷急性期パイプラインの自社開発に注力し、自社で薬事承認を得ることにリソースを集約しています。
優先順位 | 対象疾患 | 開発段階 | 臨床試験 | 申請承認 | 販売 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
第Ⅰ相 | 第Ⅱ相 | 第Ⅲ相 | |||||
1 | 脊髄損傷 急性期 |
第Ⅰ/Ⅱ相試験 (プラセボ対照二重盲検比較試験) 終了、POC取得済み、 希少疾病用医薬品指定取得済み、 第Ⅲ相試験終了 | 終了 | 終了 | |||
2 | 声帯瘢痕 | 第Ⅰ/Ⅱ相試験 (オープンラベル用量漸増試験) 終了 (医師主導治験)、第Ⅲ相試験 (プラセボ対照二重盲検比較試験)実施中 | 終了 | 実施中 | |||
3 | ALS | 第Ⅱ相試験 (プラセボ対照二重盲検比較試験、医師主導治験) 実施中、 主要・副次評価項目に統計的有意差なし、追加解析実施中 | 終了 | 終了 | |||
4 | 急性腎障害 | 第Ⅰa、Ⅰb相試験(オープンラベル用量漸増試験)終了、
安全性、薬物動態確認済み パートナー探索中 |
終了 | パートナー 探索中 |
*LPO:Last Patient Out(最終症例の経過観察期間終了)
** FPI:First Patient In(最初の症例登録)
2023年11月現在
クリングルファーマの成長戦略
当社の成長戦略の柱は2つあります。一つ目は自社製品を持つことです。希少疾患を対象に自社開発することを基本方針とし、自社製品を持つことによって中長期的な収益の最大化を図ります。脊髄損傷急性期及び声帯瘢痕は、自社による薬事承認取得を目指します。二つ目は海外展開です。当社はアンメット医療ニーズの大きい難病を対象に医薬品開発を推進しています。日本だけでなく世界中の難病に苦しむ患者さんがエンドユーザーとなります。海外の提携パートナーを得て早期に海外展開を図り、グローバル市場にリーチすることによって成長を加速することが可能となります。
※全体としての予定であり、本グラフどおりに進行することを保証するものではありません。
新規「再生治療薬」による新規市場開拓へ ~アカデミアとの共同研究~
当社は、自らがバイオ製薬企業となり持続的成長を遂げるべく、既存の開発パイプラインを推進すると同時に、新規「再生治療薬」の創出につながるアカデミア(大学等)との共同研究にも注力しています。日本のアカデミアには優れた再生医療のシーズや技術が数多くあります。これらをHGFと組み合わせることによって、新たな「再生治療薬」が生まれる可能性があり、これにより新規市場の開拓を目指します。
慶應義塾大学再生医療リサーチセンター岡野 栄之教授
慶応義塾大学医学部整形外科学中村 雅也教授
- 脊髄損傷急性期、亜急性期、慢性期の各ステージにあわせた最適な次世代治療法の開発
- iPS細胞由来神経幹/前駆細胞とHGFの組み合わせ
京都府立医科大学大学院医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学平野 滋教授
- 声帯瘢痕を対象とする臨床開発
- 声帯瘢痕治療作用メカニズムの研究および次世代治療法検討
東北大学大学院医学系研究科
神経・感覚器病態学講座神経内科学分野青木 正志教授
- ALSを対象とする臨床開発
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
消化器病態学分野岡本 隆一教授
- 自家腸上皮幹細胞移植による再生医療の臨床研究
- 移植治療に用いる腸上皮オルガノイドを作製する際にHGFを使用
京都大学医生物学研究所田畑 泰彦教授
- 対象疾患に最適で効果的な次世代再生治療法の探索
- 生物材料(バイオマテリアル)とHGFの組み合わせ
金沢大学WPIナノ生命研究所松本 邦夫教授
- HGFの次世代製造方法に関する研究
岐阜大学医学部整形外科秋山 治彦教授
同大学先端医療・臨床研究推進センター浅田 隆太准教授
- HGFの特発性大腿骨頭壊死症への応用研究