研究開発
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
疾患の特徴
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経の変性によって徐々に体が動かなくなる神経難病の象徴的な疾患です。国内では現在約1万人の患者が難病指定を受けています。ALSの発症要因は遺伝によるもの、グルタミン酸毒性によるもの、原因不明のものと様々ですが、運動神経細胞が障害を受け脱落することにより筋肉の萎縮が起こることが共通する現象であるため、運動神経細胞を保護することが治療効果につながると考えられます。従って、脊髄損傷同様に、HGFの神経細胞に対する保護作用、軸索伸展の促進作用は、病因に限定されないALSの治療につながると期待されます。
- 運動神経の細胞死に起因する原因不明の疾患
- 患者数*:9.8千人 (日本)、8.5万人 (全世界)
- 3~5年以内に80%以上の患者が死亡**
- 遺伝的な家族性ALSは10%程度**
- 発症は30~80歳代 (ピークは65~69歳)**
- 既存薬の効果は限定的
- 大きな医療経済効果 (患者さん及び介護者)
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- 出典: 平成30年度末現在 特定医療費 (指定難病) 受給者証所持者数、Arthur et al. Nat.Commun. (2016)
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- 出典: 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター ホームページ、一般社団法人 日本ALS協会 ホームページ、サノフィ社 LIVE TODAY FOR TOMORROW ホームページ
ALSに対するHGFの作用
当社では、東北大学医学部脳神経内科との共同研究により、ALSモデル動物を用いて組換えヒトHGFタンパク質の薬理効果を確認する試験を実施したところ、運動機能の回復、発症の遅延、生存期間の延長といった効果が確認されました。そこで、医薬品の開発に必要な非臨床試験(毒性試験及び薬物動態試験など)を実施して、臨床試験に開発ステージを進めました。ALS患者を対象とした第Ⅰ相試験結果の概要は、次項目のとおりです。
ALS患者を対象とした第Ⅰ相試験結果の概要
デザイン | オープンラベル、用量漸増試験、単回投与3群、反復投与2群(各群3例) | |
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患者母集団 | 20歳以上、65歳未満のALS患者 発症後3年以内のALS患者であってALS重症度分類が1もしくは2の患者 |
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用法用量 | 脊髄腔内に治験機器を埋込、皮下ポートを通じて治療薬を脊髄腔内に投与した。 単回投与は0.2mg、0.6mg、2.0mgで実施した。 反復投与(1週ごとに5回投与)は、0.6mg、2.0mgの2用量で実施した。 |
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主要評価項目 | 評価基準 | 安全性及び忍容性 |
結果 | 安全性及び忍容性はいずれも良好であった。 | |
副次評価項目 | 評価基準 |
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結果 |
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当該試験の主要評価項目は安全性及び忍容性の確認について、重篤な副作用は認められず、良好であることが示されました。また、副次評価項目として、適切な投与量を策定するために薬物動態を検討した結果、有効性を検討するために必要な投与量についての知見が得られました。本試験の結果は、国際医学雑誌Journal of Clinical Pharmacologyに論文発表されています(Warita et al, 2019.)。
この試験で得られた結果を基に、POCの確認を目的とした第Ⅱ相試験を実施しています。ALS患者を対象とした第Ⅱ相試験の概要は、次項目のとおりです。
ALS 第Ⅱ相試験(医師主導治験)
当該試験は医師主導治験であるため、当社は治験薬提供者として携わり、試験終了後の事業化に関しては当社が独占的に行う契約となっています。
試験デザイン | プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験 |
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組入れ症例数 | 46症例 (HGF投与群:32症例、プラセボ群:14症例) |
対象患者 | 20歳以上、70歳以下のALS患者 (重症度分類が1または2) |
用法 | 脊髄腔内にカテーテルを挿入し、皮下ポートを通じて治験薬を脊髄腔内に投与する 1回投与/2週、24週間 (二重盲検期)+24週間(継続投与期) |
主要評価項目 | 二重盲検期24週のALSFRS-Rスコア変化量の群間差 |
実施施設 | 東北大学病院、大阪大学医学部附属病院 |
データ解析(速報、2022年8月12日付リリース)
- 主要評価項目に関して統計的有意差はなかった
- 事前に定めた副次評価項目に関して統計的有意差はなかった
- KP-100IT投与群において進行抑制が認められた症例もあり、本試験結果の解釈にはさらに詳細な解析が必要
東北大学と追加解析に関する共同研究を開始 (2024年4月~)
- 神経変性や神経炎症のバイオマーカーを測定し、HGF投与による効果を検証する(2025年3⽉終了予定)
用語解説・参考文献
用語解説
用語 | 意味・内容 |
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ALS重症度分類 | 厚生労働省特定疾患研究調査において定められたALSの重症度。軽度の1から重度の5まで5段階に分類される。 |
ALSFRS-Rスコア | ALS患者の日常生活活動を見るもので、12項目の動作について各々0~4の5段階で点数化するもの。 |
参考文献
- Sun W, Funakoshi H, Nakamura T. Overexpression of retards disease progression and prolongs life span in a transgenic mouse model of ALS. J Neurosci. 2002;22:6537-6548
- Ishigaki A, Aoki M, Nagai M, Warita H, Kato S, Kato M, Nakamura T, Funakoshi H, Itoyama Y. Intrathecal delivery of hepatocyte growth factor from amyotrophic lateral sclerosis onset suppresses disease progression in rat amyotrophic lateral sclerosis model. J Neuropathol Exp Neurol. 2007;66(11):1037-1044
- Warita H, Kato M, Asada R, Yamashita A, Hayata D, Adachi K, Aoki M. Safety, Tolerability, and Pharmacodynamics of Intrathecal Injection of Recombinant Human HGF (KP-100) in Subjects With Amyotrophic Lateral Sclerosis: A Phase I Trial. J Clin Pharmacol. 2019 59(5):677-687.